患者教育のための基礎理論①【明日からの成人教育のポイント】

慢性疾患をもつ患者では、増悪や再発、それによる再入院などの予防が重要課題です。
そのためには患者自身の力を利用した疾患管理が不可欠となります。

日々、病棟や外来看護師は医師の診断や治療方針に則って患者への教育的関わりを行っていると思いますが、
繰り返し入院してくる患者さんや、本当にわかっているのかな?と思いながら関わっていることも多いのではないでしょうか。

今回は記事の目的は、

・なぜ患者教育がうまくいかないのか
・成人教育の特徴は何か
・成人教育に重要な5つの視点

について、具体例を折り混ぜながら話していきたいと思います。

何事も人や病気が相手のことですので、必ずしも大成功する関わりはないのですが、
その中でも、成人教育の枠組みがわかれば、明日から支援に生かすことができると思います。
ちなみに、成人教育のポイントは看護師の院内教育にも使えるものなので、参考にしてみてください。

では、参ります。

けいた
この記事を書いているのは、看護師歴10年ちょっとの者です。
普段は、専門看護師、心臓リハビリテーション指導士として働きつつ、料理や栄養の知識なんかをInstagramやブログを使って発信しています。「はじめまして」はこちらから。

 

□うまくいかない患者教育

まずは、普段の患者教育を振り返ってみましょう。

以下の内容で、あなたの病院ではどれか当てはまるものはありますか?

 

☑︎数に限らず︎集団指導を行なわれている

☑︎患者が迷わないように具体的な指導を提示する

☑︎患者がこれまでどんな指導をされてきたか確認してから行う

☑︎統一した指導ができるようにパンフレットを使用する

☑︎病気が悪化したときの弊害を十分説明する

 

必ずしも全てが不正解というわけではありません。

それぞれこだわりをもって作った指導プログラムやパンフレットだと思いますし、
真面目に看護師さんが患者に関わっていることも重々承知です。

しかし、これらは大人への教育かと言われると、不足と言わざるを得ません。
その理由について少しお話しします。

 

□成人教育と子ども教育の違い

成人教育が取り扱う有名な理論としてアンドラゴジーというものがあります。
これはアメリカのノールズさんが提唱したものです。

彼は、成人と子どもの教育の一番大きな違いを、
「教える/教えられる」という関係から、学習者と教育者の間に「学ぶ/学習を援助する」関係が成立しているとしました。

つまり、ここでいう学習者は患者やその家族であり、
教育者は医療者、看護師ということになります。

もちろん、時と場合にもよりますので、自宅に帰れば家族が教育者として患者を援助したり、
逆に患者が家族の援助を受けるために教育者になる事もあります。
このように場面によって役割が変わることも、成人教育の特徴と言えるでしょう。

子どもの学習が教師主導型学習であるのに対し、
成人教育の特徴は自己主導型学習であるともいわれます。

場面によって(例えば、感染症によるパンデミックが起きた直後など)は相手が成人であっても、
専門家である医療者が、適切な予防対策や生活指導を、実践レベルでお伝えし、すぐに実施してもらうことが必要な場合もあるでしょう。

しかし、多くの慢性疾患患者においては、
成人だけではなく、青年期や老年期以降においても、
患者の自己学習を支援することのメリットが大きいと考えられ、
成人教育の方が生かされると考えられています。

 

□成人教育に重要な5つの視点

 

成人教育で前提として、先に出た自己主導型学習の特徴として5つの考え方があります(表1)。

「自己概念」「経験」「学習準備性(レディネス)」「指向性」「動機づけ」

☑︎数に限らず︎集団指導を行なわれている
☑︎患者が迷わないように具体的な指導を提示する
☑︎患者がこれまでどんな指導をされてきたか確認してから行う
☑︎統一した指導ができるようにパンフレットを使用する
☑︎病気が悪化したときの弊害を十分説明する

最初の質問を覚えていますか?

これらについて具体的な考えをまじえながらお話しします。

 

①学習者の自己概念

成人における自己概念とは、子どもとは違い、他者依存的なパーソナリティーから、徐々に自己主導型になっていくことを指します。

つまり、さまざまなこと関する自己決定性が増していくという考え方です。

これを学習に関して言えば、学習の方法や目標、内容といったものを自分で選択し決定し、そして実施する。
この過程自体が成人の特徴です。
したがって、成人学習では、こういった成人の自己決定性を尊重することが必要であるということです。

集団教育などでは、言われたことを覚えてもらうことを目的にするのではなく、
教育内容から患者が実践できるものを選んでもらったり、
患者が実施できそうな内容を一緒にアレンジして目標立てしたりするなど、
患者が自分で決定できる関わりをすることが、成人教育の前提であると考えます。

そもそも集団指導のみで学習させることは、
成人学習の在り方としては、主体性を尊重しているか?というところについて反省はすべきと考えています。

②学習者の経験

大人では、蓄積された過去の経験こそが、学習の豊かなリソースとなる、と言われています。
リソースとは、子ども教育でいう教材にあたります。

つまり、大人の場合は、学ぶための手がかりとなり得る、「人」「モノ」「情報」「財源」などがすべてリソースとなり得るのです。

そういった活用できるもの、活用するための患者自身の知識や技術に関する経験自体がリソースになるので、
それらを医療者が知っているかどうかは重要な課題となります。

例えば、過去の体験を思い起こさせることで、症状マネジメントを進める際には重要だったりします。

ある心不全患者さんで、
「スーパーでパートをしている時、レジ打ちでは息切れは起こらないが、品出しの時に、体をかがめて作業していると息切れがする。」

患者は身体負荷としては変わらない作業なのに、なぜ症状が異なるのか分からないが、
そういった症状体験をもとに、かがむことで腹圧がかかり、心負荷が増大することが理解できます。
それにより、職場での業務調整や、腹圧のかかる便秘予防などの行動がとれるようになったら教育が上手くいったと考えられます。

具体的な指導は重要ですが、患者にあっているかどうかを検討するには、
患者のこれまでの生活歴や病気体験についてコミットしなければいけないということですね

③学習者の学習準備性(レディネス)

レディネスとは「身体的、知的、精神的に学習の準備が整った状態」を指します。

そのため、大人の場合、職場や社会、過程などで社会人としての役割における問題解決や、
その役割を有効に果たしていくための学習の必要性への自覚、
そしてそこへの取り組みの姿勢や意欲などが重要なレディネスになると言われています。

逆に言えば、普段の生活で持つ役割の遂行に弊害になる事が明らかであれば、
患者自ら学ぶことはせず、疾患管理における療養行動をとる事に繋がらないのは言わずとも理解できると思います。

成人患者の教育で重要なのは、②学習者の経験にも関連するところですが、
これまで作り上げてきた生活や役割をいかに保持するかはポイントになってきます。

生活のための仕事を続けなければいけないがために、
仕事に復帰しては病気の増悪を繰り返している患者もいますよね。

どんな指導を受けてきたかはもちろん重要ですが、
重要なのはこれまで生活を続けるために、病気の症状や治療がどのように大変であったか、
そして、これまでの生活を続けていくために、協力したい気持ちを共有できて初めて、患者は学習を受けるための準備ができていくのではないでしょうか。

④学習者の指向性

子どもの場合は将来のために学ぶ、という大義名分があり、それを目指すことがよしとされ教育が実施されます。
しかし、大人の場合は、遠い未来に備えて学ぶというよりは、「近未来のある具体的な目的のために学ぶ」ことのほうが圧倒的に多いと言われています。
普段目の前の仕事や役割をこなすことに一生懸命な大人ならではな特徴であると思います。

そのため、即効性のある学習が望まれることが多いが学習が一面的になりがちで、総合性や系統性を欠きやすいという特徴があります。
「この薬を飲めばいい」とかが大人は好きですよね。

病院などの退院指導では、よくパンフレットを用いた学習方法がとられていると思います。
①ともかぶるところではあるのですが、患者は何のために療養生活に取り組むのかを、
具体的なニーズや実態に合わせて課題を持てないと取り組みづらいのです。

しかし、パンフレットなどは生活での「気をつけることリスト」のように感じてしまう患者さんもいます。
逆に高齢者なんかは守らなければいけないことを具体的に提示した方がいい場合もありますが、それも生活に合わせた形にする必要があります。

⑤学習者の動機づけ

大人の場合「内的な刺激や好奇心によって学習への動機づけを得る」とされています。

子どものように全てのエネルギーを学習に費やせないので、
社会や家庭生活などの責任を全うしつつ、それらに調和させながら学んでいくパートタイム学習者なのです。

そのような中で「なぜ学ぶのか」を常に問われるがゆえに、学習の意味や位置づけが明確化する傾向がある。
そのため、達成感や満足感など主観的な充足感によって、到達度がはかられやすいと言われています。

例えば、医師は病状説明を利用して患者の動機づけを整えることがあります。
病気の悪化を告げたり、新しい治療(インスリンや透析など)の導入などは患者のショックが大きいこともあり、
それにより患者が行動変容することはあります。
しかし、これはポジティブな動機づけではないため患者のストレスは相当なものです。

高齢患者であれば、あと数年と言われたが、孫の小学生姿が見たい、といった当たり前だがもしかしたら叶わないかもしれない未来が聞けたりします。

そういった場合、可能かどうかは医療者で評価することは必要ですが、

患者がそこを目指して生活を変えていく事が出来るのであれば、それはきっとポジティブな動機づけと言えるのではないでしょうか。

□まとめ

いかがでしたでしょうか。

明日以降患者の教育を考える際、上に書いた5つの視点

①学習者の自己概念
②学習者の経験
③学習者の学習準備性(レディネス)
④学習者の指向性
⑤学習者の動機づけ

について、患者のアセスメントをしてみてください。

情報を整理するより前に、気にかけてくれることに対し、患者から信頼を寄せきてくれているのではないかと思いますけどね。

□参考

渡邊洋子. 成人教育学の基本原理と提起,医学教育第38巻, 第3号, 2007
内田雅子. 慢性看護実践における省察的事例研究法の実用的体系化,高知女子大学看護学会誌VOL.43, NO.1, pp130~139 201
三輪建二. 成人教育学と看護教育, 上智大学総合人間科学部看護学科紀要, No.3, pp3-13, 2017

Situation of Nursing 1【リハビリが進まなくなった脳梗塞患者さん】

2020年5月3日

入院を4日間縮めた看護【計画開示は患者–看護師関係を作る儀式】

2020年3月31日

 

 

 
 
Instagramやってます

紹介している本などはこちらから

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です