いきなりですが、
慢性心不全は、
前回記事でも話しましたが、
急性心不全は、もともと心臓になんらかの異常がある/来たしやすい状態(慢性心不全”状態”)であるときに起こるものです。
つまり、心臓になんらかの問題を抱えている状態=慢性心不全といいます。
よく入院してくる状態を心不全という診断ぽいものを患者の代名詞にして使用してることをよく見かけますが、
僕からしたら違和感しかありません。
今回の記事では、
・慢性心不全に絶対に必要な内服薬
・患者教育のために理解して欲しい2つの心不全
治療の方向性がみえると、心不全を抱える患者さんの教育の方向性も見え、
もしかしたら患者さんの治療を看護師が助けることもあるかもしれません。
なるべく簡潔にまとめていきますので、
新人さんや循環器内科病棟に移動したばかりの看護師さん、
それに加えて、在宅や施設で心不全患者さんをみている看護師さんの参考になったら幸いです。
では、参ります。

Contents
□急性期のOKと慢性期のNG
心不全の概念について共通理解して欲しい部分についてお話しします。
心機能になんらかの異常があると、
心臓から送られる血液の流れに異常が生じます。
その異常に対して、体が「なんとかしなきゃ」と反応し、
その反応が症状として感知されると心不全が悪化したと感じます。
心臓からの血液の流れに異常がある、と言うことは、
動物の体はどこかで出血を起こしているのではないか?と勘違いをし、対応しようとします。
例えば、大量出血すると、体に回す血液が不足したことに対して、中枢臓器を守ろうとします。つまり、
・末梢血管の収縮→交感神経活性+アンギオテンシン放出
地球上の生き物は長い歴史の中で、他の動物から襲われた時が一番死に直結していました。
生物学的な反応として体(特に中枢臓器)を守る反応が起こるものなのです。
慢性心不全は、強弱はあるものの、常にこのような反応が体で起きていると錯覚し、
RAA(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン)系や交感神経が活性化している状態なのです。
それらの力で心臓の働きをカバーしきれなくなることで、急性心不全になります。
だから急性期は慢性期治療に加えて、
カテコラミン、血管拡張薬、利尿薬などを使用して、心臓の機能が低下したことで問題になっている部分に、強固に早急に薬剤を投下して救命、症状緩和を行います。
しかし、先ほども書いた通り、
慢性心不全は常に心機能異常が残り火のようにくすぶっている状態なのです。
つまり、それによる反応であるRAA系や交感神経活性が常に体を蝕んでいくのが慢性心不全です。
ここまでを再確認のためにまとめますと、
・末梢血管の収縮→交感神経活性+アンギオテンシン放出→後負荷増大
以上から、体を蝕むRAA系、交感神経系の活性を抑える治療が何よりも重要なのが、慢性期治療の基本であり、
急性期の正常は反応が慢性期にはよろしくない理由がここにあります。
これについては、急性期は症状が改善するので「目に見える治療」、
慢性期は予後が良くなることを目的とするので「目に見えない治療」と言われたりします。

□慢性期心不全といえばトリプルセラピー
慢性心不全は、常に蝕まれるような病態であり、
ちょっとした心負荷で急性心不全状態に移行する可能性がある状態です。
心不全の予後についても、2018年の心不全診療ガイドラインにおいて、
急性心不全を繰り返し悪くなっていく病態であるとされています。

そのため、上の図で言うと、
いかに急性増悪を起こさず、心不全を持った状態で緩やかな坂道を長いものにしていくかが、
慢性心不全の治療目標になるわけです。
これを元に慢性心不全の治療薬、絶対に必要な3剤についてお話しさせてください。
・β遮断薬
・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
①ACE阻害薬/ARB
ARB:ミカルディス、ディオバン、ブロプレスなど
血管拡張作用が主な仕事です。
それによりうっ血の解除が可能となり、「目に見える治療」として症状改善効果が期待できます。
しかし、最大の功績は、ACE阻害薬の予後改善効果にあり、
現在の心不全治療エビデンスのすべてがこの薬で成り立っていると言われています。
特に心不全の収縮不全(LVEF<40%)患者には確実な予後改善効果を有し、絶対に投与しなければいけない基本薬剤です。
注意点は、血圧の過度な降下や腎機能の悪化、血清K値の上昇が現れることがあります。
ARBについてはACE阻害薬と同等の臨床効果があると言われているが、エビデンスの蓄積量からACE阻害薬が重宝されます。
空咳の副作用が出た場合はARBに変更をします。
②β遮断薬
β遮断薬は「目に見えない治療」である予後改善効果の代表格であり、
心不全の収縮不全での長期予後の改善が証明されています。
・現存の心不全薬物治療のなかで最も生命予後の改善効果が高い
・不全心の縮小と機能改善「リバースリモデリング」をもたらす。
しかし、「心臓を休ませる」という心保護効果は、同時に心抑制という「使い勝手の悪い」側面を持っています。
導入のための注意点は、
まずは導入するのに慎重になるべき症例を見極めることです。
・重症心不全(LOS)
・徐脈
・高度弁逆流症
・腎機能障害
また、導入は必ず入院中に行い、漸増ステップも安全を確かめながら行う必要があります。
導入後3ヶ月は悪化のリスクがあると言われています。
さらに、心不全増悪時について、
多くの場合、上記の理由から急性期にβ遮断薬を中止することがあります。
しかし、中止した状態で急性期を過ごすことは、交感神経の活性化を助長することになるので、
ノーガードでハードパンチをもらい続けるようなものと言われています。
したがって、β遮断薬の継続が基本です。
③ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
抗アルドステロン薬とも言い、「目に見えない治療」である予後改善効果があります。
それに加え、「目に見える治療」である利尿効果もあります。
フロセミドのような利尿剤に比べるとその効果は見劣りしがちですが、
心不全の急性期の早い段階からスピロノラクトンを使用し、利尿が測れると中期予後が良好であると言われています。
また、降圧作用が弱く、血行動態へのリスクも少ないことから重症心不全にも使いやすいという特徴を持っています。
慢性期心不全治療には欠かせない薬です。
時折、女性化乳房の副作用がでて、その痛みなどで中止する人もいらっしゃいますが…。
□患者教育のために理解して欲しい2つの心不全
2つの心不全て急性期と慢性期じゃないの?って聞かれそうですが、
結論から言うと、ここでお話ししたいのは、収縮不全と拡張不全について。
上記に書いた3つの薬剤の予後改善効果は、
どれも収縮不全であるHFrEFに対するエビデンスが基礎にあるお話です。
心不全患者の約半分を閉めるHFpEFと呼ばれる拡張不全には、
今のところ予後改善効果のある薬剤は今のところありません。
しかし、病態の違いに関係なく、
急性期に適切かつ速やかに治療介入することは、予後を改善させることは間違いないことです。
いわゆる、「目に見える治療」として、水を引き、血管を開き、心拍数を適正化し、末梢循環を保持させ、心拍出量が不足するなら強心薬を投与する。
予後改善薬がなかろうと、変わらない治療もあるということです。
したがって、HFpEFにおいては、
老人性や高血圧心疾患が多いとされているが、
それ以外の既存の原因疾患の鑑別を丁寧に行い、治療を決定していくことがおろそかにならないことが大事であると言われています。
特に、
・心臓アミロイドーシス
・Fabry病
・心臓サルコイドーシス炎症極期
・収縮性心膜炎
・肺動脈性肺高血圧
など、どれもLVEFを保って心不全を起こす可能性があります。
予後改善薬の有無に限らず、
できうる限り、可能な限り、最善の治療を考えていくことで、
患者のQOLやアドヒアランスを保持し、長く前向きに療養が続けられるような支援を検討していかなければなりません。
□まとめ
いかがでしたか。
薬以外にも大事な要素があるのですが、
それをはしょりながらの説明になってしまいわかりにくいところもあるかもしれません。
一応、今後心不全治療薬になりうる、SGLT2阻害薬という糖尿病の治療薬が、HFpEFの治療法の選択肢となる可能性がある、と言われています。
今後に期待ですね。
先日、退院後1月で心不全再増悪した患者に介入した際、
β遮断薬が退院処方にないので、主治医(研修医上がりで初受け持ち)に確認しました。
そうすると、入ってない理由が先生もわからなかったようで、
先生が過去カルテを遡ると、 数年前に中止されてからそのまま気づかれずに中止され続けていたそうです。
中止した理由はあったにせよ、その後再開しなかったのに判断があったかどうかは誰もわかりません。
しかし、もしそれがただの処方忘れであれば、
僕ら看護師に処方をする権利がなかったとしても、
最低限必要な知識があれば、看護師であっても医学的に患者を助けることができるのだと再認識しました。
それは、心電図以上に気付いたり、急変時に心臓マッサージをするといった「目に見える治療」に繋げることではないかもしれませんが、
患者のよく見えない未来の生活のためには、きっと必要なことだったと信じたい、そう思っています。
普段は、専門看護師、心臓リハビリテーション指導士として働きつつ、料理や栄養の知識なんかをInstagramやブログを使って発信しています。「はじめまして」はこちらから。