患者教育のための基礎理論②【コンプライアンス不良は医療者のせい】

看護基礎理論編の第2弾は、みんな大好きコンプライアンスについて。

患者教育に限らず、治療を受け入れたり、選択するためには、
患者側の納得と同意が重要なのは、多くの方々に認識されていることと思います。

しかし、なぜか医療者の提案した療養方法を守ることのできない、
いわゆるコンプライアンスの悪い患者が後を立ちません。
そもそもコンプライアンスという言葉は、医療界では本来は死語であるはずなのです。

今回の記事では、

・なぜ療養行動が続けられないのか
・セルフケアのためのアセスメントのポイント
・コンプライアンス不良の患者と関わる時のコツ

コンプライアンス不良と記録に書かれてしまう患者さんたちは、
本当に納得と同意のもとで治療や療養を続けていますでしょうか。
その納得と同意について、医療者の方々はどのくらい認識して関われているでしょうか?

今回もなるべくすぐに臨床で活かせるコンテンツを目指したいと思います。
理論シリーズでは、あまり頭を固くせずに学べるものにしたいので、わからないところがありましたらご意見をいただきたいです。

では、参ります。

けいた
この記事を書いているのは、看護師歴10年ちょっとの者です。
普段は、専門看護師、心臓リハビリテーション指導士として働きつつ、料理や栄養の知識なんかをInstagramやブログを使って発信しています。「はじめまして」はこちらから。

□療養行動を続けられない本当の理由

コンプライアンスという言葉は、社会的には企業・ビジネスコンプライアンスといった形で耳にしますよね。
これらは「法令順守」という言葉に意味される通り、悪いことをせずに働きましょうということです。

しかし、医療界においても、コンプライアンスという言葉をよく聞く反面、実はあまり使用することは勧められていません。それはなぜか。

その理由として、2001年WHOは、コンプライアンスからアドヒアランスに考え方を転換することを推奨しました。
医療の中においては、患者が療養行動を取れない時に「コンプライアンス不良」という形で表現されます。
が、これは本来、倫理的にはあまりよくない言葉です。

それは、コンプライアンスが医療者による医学的な助言や健康上の助言と一致するように患者が行動することを意味するからです。

それに対しアドヒアランス」とは、薬物療法や食事療法など、医療者が適切な情報や治療方針に基づき、患者自身が合意、了承し、自分の養生法を遂行することを言います。

療養を続けるためには、患者自身が決定し、自分を支える責任を自分自身で持つという患者主体性にコンプライアンスとの違いがあり、
患者が受動的であっては、医療の本来の成果を望めないという理由から、推奨されなくなった背景があります。

つまり、患者が療養を続けられないのではなく、
患者に合わせた療養方法を提供できない医療者に問題があるのではないか
アドヒアランスという概念の裏には、こういった意味が込められているように感じてしまいます。

そして、アドヒアランスを考えるためのコツとしては、
アドヒアランスの障害になっている要因を患者とともに考えるところにあります。
コンプライアンスは、そもそも医療者の言うことを患者が遵守すると言うことなので、この要件は必要ありません。

患者が療養行動をとることのメリットやデメリットをどのように認識しているか、それを話せる医療者との関係性があるか、
もちろん病態や生活・家族背景についても関連要素になってきます。

したがって、アドヒアランスの考え方からすると、
医療者は患者のさまざまな要素を評価し、治療や養生法を提案していくことになります。
そうすると自ずと医療者は、患者が決めた養生法の結果に責任を持つということになるので、
良いも悪いも患者と共有することになるということなります。
これってとっても良い関係に感じませんか?

 

□アセスメントする2つの視点

患者との関係性を作りつつ教育のための情報収集をしていくためには2つの重要な視点があります。

それは、アドヒアランスの障害になっている、①患者本人に関することと、②患者からみた他者との関係性についてです。

 

①患者本人とは、

疾患の状態、健康リスク状況(喫煙、肥満、運動不足、血中脂質、糖尿病など)の病態。

それに加えて、健康観や病気に対する見方、受けてきた健康教育、設定している目標、動機づけや変化への意欲、自己効力感などの療養行動に影響する個人因子です。

②他者との関係性としては、

患者の社会的背景、サポート体制の有無、医療者との関係性などが挙げられます。

 

なんかアナムネとっているみたいですが、
これだけの情報をもとに患者教育に携わっている方がどれだけいるでしょうか。
そもそも短い入院期間や外来受診の間で、自分の受け持ち患者さんのことを理解して教育に携われることも少ないのではないかもしれません。

アドヒアランス向上のためには、必要な情報を得て、そしてアドヒアランスの障害になっている部分への個別的な対応をとることが重要です。
そのためには、患者への十分な情報提供と、それを元にした話し合いと方針の決定が患者とともにできることが求められます(表1)

 

特に慢性疾患の経歴が長い患者では、
長きに渡りさまざまな医療者と関わってきているため、
良い経験も嫌な経験もされ、そういった思いも療養行動の選択などに影響している場合があります。

患者さんの「前にも聞いたことがあるので結構です」という決まり文句は、
その患者さんの医療者への信頼の低さを表している言葉だと思っています。

なぜいらないのか、
逆にどこにそんな自信があるのか、
なんで入院しているのか、
そういった患者の認識を知らずして教育的関わりを無しにすることは、飲ませなきゃいけない薬を飲まさないのと同じようなものじゃないかと思います。

 

□アドヒアランスを高める3ステップ

アドヒアランスを高める支援のために看護師は、それらの情報をもとに、3つのステップにて支援を行います。

 

ステップ1:
 患者の話から、何が障害になっているかをアセスメントする

ステップ2:
 患者が養生法を実行するために必要な知識・技術を提供する

ステップ3:
 患者合意のもとで養生法の決定や変更を行い、目標を共有する

先にも話した通り、患者個人の要因、患者に関わる他者の要因から、
「アドヒアランスに障害を与えていることは何か」という視点をもち、アセスメントをする切り口を多角的にもつことが必要です。
それぞれについて症例をもとに説明をしていきます。

 

症例
60歳代、血液透析歴2年の女性
最近体重の増加率が高く、徐水量を増やしてもドライウエイトに達しない日が続いている。
透析中の血圧低下などもあり、「最近、透析がきつい」と漏らしている。

 

ステップ1:患者の話から、何が障害になっているかをアセスメントする

症例の患者さんは、自宅での水分管理がうまくできず、透析の進行に影響してきています。
なので、患者が透析を問題なく続けていくためには、自宅での体液管理が重要ですが、患者にとって透析と体液管理がどのように繋がって認識されているか
また、そもそも療養行動が、日常生活にどのように影響しているか、について確認します。

ここでは、患者さんが透析を続けることでの苦痛が生じていることに目を向けつつ、
まずは、体重の増加という現象に対し、患者の透析治療に対する認識を確認していくことから始めるといいかもしれません。

透析を継続してきた患者であれば、普段の水分摂取が透析に影響することは理解があると思います。
なので、水分管理という療養行動に、患者自身、またはそれ以外の要因があって障害されている可能性について確認していくのが、1stステップになります。

 

ステップ2:患者が養生法を実行するために必要な知識・技術を提供する

患者に必要な知識・技術が何かを検討していくのですが、
大切なのは医学的な情報を提供することではなく、患者が自分で養生法を決定できるような知識や情報を提供することです。

例えば、水分管理のためにコップで測量してから飲む、水分量を記録する、汁物は飲まないようにしましょう、というのは、一見具体的な案に聞こえてきます。
しかし、それが患者の生活にあったものかどうかは別の問題です。

ステップ1で聞いたアドヒアランスを障害する要因を元に、
除水によってかかる体の負担や口渇感の増悪といった弊害を伝えつつ、
快適な生活を送るために何が必要かを患者と共有していきます。

その上で、水分管理の方法や塩分を控えられる食事のメニューなどを患者と一緒に考えていけると良いのではないでしょうか。

患者が自分で生活にあった方法を検討することができれば、挑戦することには前向きになれるし、
少なくともやらずじまい、ということはないのではないでしょうか。

 

ステップ3:患者合意のもとで養生法の決定や変更を行い、目標を共有する

最後の目標の共有は最も大事であると言われています。

医学的な目標はもちろんなのですが、「何のために透析を行うのか」ということを患者さんと共有してほしいのです。
しなければ死んでしまうのは誰でもわかります。

それだけではなく、透析をするだけでも大変なのに、透析をすることが「きつい」と言っている患者の気持ちに寄り添い、
どうすればより快適に生活できるか、という一番大事な目的のために患者ができることが何かを考えていきます。

大きな目標はドライウエイトを次の透析までに●kg以内に抑える、という医学的目標は透析をしている限り、すでに存在しているのです。
それを達成するために、患者が主体的になれる療養の目的は何か、
患者と一緒に考えられる関わりを実践できることがこのステップになります。

各ステップを通し、何よりも1番のコツは、ステップ1を丁寧過ぎるほどやることです。
多くの看護師がステップ1をすっ飛ばしてステップ2に行きがちです。
ステップ1がしっかりできればステップ2と3はそれほど時間がかからないはずです。

ぜひ試してみてください。

 

□まとめ

いかがでしたでしょうか。
まずは記録ではアドヒアランスという言葉を使いましょう。
わかる人にはわかります。
「お、こいつよく分かってんな」って。

同時に、ステップ1にて、患者のアドヒアランスを障害する個人・他者要因を十分に情報収集し整理できれば、
それだけでも医師やその他の職種、看護チームでいろんなアイディアを話し合うことが可能になります。

僕の理想は、ステップ2以降は多職種で行えることが、慢性疾患におけるチーム医療なのではないかと考えています。

そうすることで、外来や病棟、どこにいっても患者が頼る人ができ、
安心して療養行動について相談ができる環境が整うと考えています。

それにより、患者のアドヒアランスの障害が、医療者にならないことを祈っています。

 

□参考文献

水町淑美. コンプライアンスとアドヒアランス, 透析ケア, vol.20 no.6, 2014

植木純. リハビリテーション心理学・社会学UP DATE アドヒアランス, JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION, 18(7), 2009

嶌田理佳. 心臓血管疾患患者のアドヒアランスに影響を与えるもの, HEART nursing, 22(9), 2009

 

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