コロナ禍に学ぶこれからの医療【医療を国の重要な財産に】

国などの共同体が存続するために必要な公共財を「社会的共通資本」と呼びます。
上下水道、交通網、通信網、ライフライン、教育、医療、司法などがそれにあたります。
これは本来公共的なもので、専門家が、専門的知見に基づいて、政治イデオロギーとも市場ともかかわりなく、管理すべきものです。

内田樹の研究室より一部抜粋

これは僕が看護師を始めた当初より内田先生より授かった教養の一部であり、
これを元に医療職として振舞っているつもり。

今回のコロナ禍により、経済を回すことが重要視され、
先進国の多くがコロナ患者を受け入れきれず医療崩壊を起こしている。

その背景には、このような公共財である医療や福祉を金食い虫として取り扱ってきたことの報いが、その理由の1つであろうと考えている。

こんなにも重要な医療体制をなぜあらかじめ整備しておくことができなかったのか?
そもそもできたのにやらなかったのか?
その疑問を医療者の立場から簡単にお話しさせていただく。

けいた
この記事を書いているのは、看護師歴10年ちょっとの者です。
専門学校卒で10年目に専門看護師になりました。 普段は、専門看護師として働きつつ、料理や栄養の知識なんかをInstagramやブログを使って発信しています。「はじめまして」はこちらから。

 

Contents

□医療にお金が回らないわけ

人々を共同的に益するものですから、営利には役立ちません。

人間が生きるために必要なもの(例えば水とか医療とか教育とか)はできるだけ質の良いものを、できるだけ安価で(できれば無償で)提供するというのが社会的共通資本の考え方です。

内田樹の研究室より一部抜粋

これまで国や地方はこういった公共財を税金や国有地などで管理することで、
それを必要とする人やそこで働く人を守ってきた。

しかし、専門家が管理するわけですからコスト意識なんかほとんどない。
そういう意味では、収益やコストパフォーマンスを考えれば、民間に委託した方がより効率的で低賃金で運用も可能となる、ということが当たり前になっていった。

これが資本主義の基本的な考えだからですね。

しかし、医療や福祉はそもそも心身の不調によって、
生活や労働といった活動に支障が出ていることへの必要な資本であり、
全国民が必要な歳に平等に得られなければいけないものです。

したがって、それによってお金が生み出されることはなく、
医療が進歩したり、平均寿命が伸びたりすれば、自動的にかかるお金も増していくのです。

国同士の競争のために、
公共財への財源を削り、資本主義を貫いてきた先進国が今コロナの影響を真っ先に受けていると言っても間違ってないかもしれません。

 

□肩身の狭い医療が患者に与える影響

医療や福祉にかかるお金が絞られることは、公共財を民営化(国民に近い位置に押し戻すこと)にするのと中で起こることはあまり変わらなくなります。

糖尿病になったのは自分のせいなんだから、とか
働かない生活保護者の医療費を払いたくない、とか、
最近で言えば、医者や看護師になりたくてなったんだから危険手当を出せとか言ってるんじゃない、
といった論調で医療者や患者が、“お金のかかる対象”として忌み嫌われることに繋がっているように見えます。

これは医療者本人たちにも言えることで、
いかに診療報酬の高い治療や薬を使うか、とまではなっていませんが
(なっていたら公平性や善行といった倫理原則に反してしまいます)、
診療報酬の高い治療を専門にした病院やクリニック、
逆にお金にならない、訴訟が多い専門家は縮小するという現象すら起きます。

医療や福祉が提供される内部でのお金の使い方で、専門性や医療が提供される環境に影響が出るようになります。
これは働く医療者にとっていい環境ではないし、
ひどくなれば、働いている人たちを守るか、患者を守るか、共倒れするかということになります。

これって、今コロナ禍で起きていることと変わらないのがわかりますか?

 

□経済よりも公共の益

だらだら語っても仕方がないのでまとめていきます。

よく北欧の方では税金を多くとる代わりに医療や福祉にかかる国民の負担を減らしていることが取り上げられています。

しかし、僕としては今回のコロナ禍で活動が余儀なくされている医療、福祉の公共財は、
警察や自衛隊、消防といったものと同等、もしくは一緒に働く人や場所、資材などを国が十分に保証するべきと思っています。

医者や看護師を公務員にしろとは言いません。
しかし、営利的に活動できない以上、医療や福祉現場で働く人々の保証が強化されないのであれば、
今後コロナ禍が仮に終息したとしても、
同じような事態が起きることを想定したら、医療者の成り手はいなくなります。
僕だったら選びません。
一般の人は知識がないぶん、僕ら以上に恐怖を感じるからです。

そうなれば、今後高齢者が増えていくことと相まって、慢性的な医療崩壊が進むであろうことは目に見えていることですし、
これまで、そういったことを想定しつつも無視し続けてきた政府の失敗が、
今回の医療の混乱や崩壊を生んでいることを自覚すべきいいチャンスだと思うのです。

 

□医療を国の重要な財産に

そもそもお金に糸目をつけず、なんかあったら困るからとお金を出す気概さえあれば、
コロナが世界に広まる前に準備はしていたはずです。

その余裕が医療現場にない状態で医療を回していた事実に、
医療者が気づいていても何もできなかったし、
国の管理者は何もしてくれなかったのが敗因の1つです。

なので、今後の医療を支えるためには、
病院や地域医療を、地方自治体だけにまかせず、
国の財政的な下支えを十分に敷いた上で、地方ごとに政策をまかせるようにすることは重要だろうと思います。

もしコロナが蔓延している最中に、
もし別のウイルスが蔓延したら?地震などの災害が起きたら?
想像できますか?

僕ら医療者はその中でも患者の戦うための心は持っていますが、
マスクがない、命の保証がない環境では、
働きたくても働くことはできません。

ぜひ、今回のコロナ禍を気に、
医療や福祉という公共財を、生産性にこだわらず、保証できる国なることを望みます。

それにより、医療者になることが、「もう1度安定した仕事だから」「人の役に立つ仕事だから」と言ってもらえる世の中にすることが、
今後の医療を良くするために必要なことだと思うんです。

 

 

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